空が青いから白をえらんだのです ―奈良少年刑務所詩集― (新潮文庫)
- 作者: 寮美千子
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2011/05/28
- メディア: 文庫
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奈良少年刑務所の受刑者の詩を集めた本。
先週、たまたま図書館で手に取った。
パラパラと立ち読みして、目が離せなくて、空いてる机に座ってじっくり読んだら、涙がこぼれそうになった。詩に添えられた寮美千子さんの解説がぐっとくる。
なんてことないんだけど、深いところにまっすぐ届いてくるような、不思議な素直さに満ちた素晴らしい詩。全然知らなかったけど、大手の新聞社でも紹介された有名な本なのですね。
わたしの心に残った詩。
p33
好きな仕事
自分の好きな仕事は 工場などの屋根を作る板金工です
好きな所は 鉄骨の上を歩くスリルや
競争をして 楽しくできるところです
でも 真夏の屋根の上は暑く
雨が降った時の雷は こわかったです
外の仕事は 雨が降ると中止になりますが
そこも好きなところです
ビニールハウス作りも 好きな仕事です
畑の中なので 雨が降った後は 歩くのが大変ですが
一つの場所が 大きくても二日だけで終わっていたので
色々なところに行き 色々な人に会えました
話をしながら仕事ができて 人数が少ないのがよかったです
p70
あたりまえ
食べられる
眠れる
歩ける
朝を迎えられる
母がいる
みんな あたりまえのこと
あたりまえのことは
あたりまえじゃないんだと
あたりまえのなかのしあわせに気づかずに
薬を使って偽物のしあわせを求めたぼくは
いまやっと 気がついた
あたりまえの しあわせ
あたりまえが しあわせ
p81
バカ息子からおかんへ
恩返しなんて おれにはできひん
もらったもんが 大きすぎるから
恩返しなんて おれにはできひん
でも
悲しませることは もうせえへん
もうせえへんよ おかん
p128
ぼくのママ
たかしくんのおかあさんは すごくお料理が上手
まさるくんのおかあさんは いつも笑ってて楽しい
みきちゃんのあかあさんは とってもおしゃれですてき
まことくんのおかあさんは いつもやさしくてあったか
ぼくのおかあさんは すごくモテるんだ
だからぼくは いろんなパパを知ってるよ
でももう 何年もママに会えなくて
大好きなのに 会えなくて
みんなのママが うらやましくて
ママなんか嫌いって いつもいってたけど・・・
やっぱり好き ママのこと
編者である寮美千子さんは、もともと刑務所での教育に興味があったわけではない。
その当時、刑務所の教育統括だった細水令子さんの話を聞いて、共感し、やってみようかと思った。と述べられている。
以下に細水さんの言葉を抜粋。
p142
「家庭では育児放棄され、まわりにお手本になる大人もなく、学校では落ちこぼれの問題児で先生からまともに相手にしてもらえず、かといって福祉の網の目にはかからなかった。そんな、いちばん光の当たりにくいところにいた子が多いんです。ですから、情緒が耕されていない。荒れ地のままです。自分自身でも、自分の感情がわからなかったりする。でも、感情がないわけではない。感情は抑圧され、溜まりに溜まり、ある日何かのきっかけで爆発する。そんなことで、結果的に不幸な犯罪となってしまったというケースもいくつもあります。先生には、童話や詩を通じて、あの子たちの情緒を耕していただきたい」
「社会性涵養プログラム」とは、刑務者の中でもとくに内気だったり、他人とコミュニケーションを図るのが難しい人々に向けて行われた。内容としては、次の3つの要素で構成されている。
• 絵画
• 童話と詩
この3つを、月一回ずつ、合計月三回の授業を6ヶ月行う。
この授業の中で書かれたのがこの本の中に収められた詩だ。社会性涵養プログラムは、驚くべき成果をあげる。その後寮さんは、研修会などで、その成果や効果についてパネリストとしてお話されている。
最後に、罪を侵した少年たちを見守る竹下教官の言葉をお借りして、記事を終わります。
p150
「どんな凶悪な犯罪者も、はじめは心に傷ひとつない赤ちゃんだったはずです。ところが生育していくなかでさまざまな困難に出会い傷ついてゆく。受刑者の多くが、子どものころ、精神的、身体的な傷を受けています。その傷をうまく処理できなかった者が非行に走り、犯罪者になるのかもしれません。更生させ、再犯を防ぐためには、元の自分に戻してやることだと思うのです。子どもらしさを素直に出させ、それでも大丈夫だ、と安心させてやることができれば、立ち直るきっかけになり、非行や犯罪と無縁の生活を送れるようになるのです」
世の中のお父さんお母さん。教育者の方たちには、ぜひ一度目を通してほしい本です。
そして、決して世の中の表には出ないところでこのような尊いお仕事をされている多くの方々に、敬意を表したいと思います。