深呼吸図書館

悩めるあなたのための1冊アドバイザー“なついちご”が、今のあなたの気分にぴったりの本紹介します。

空が青いから白をえらんだのです

 

空が青いから白をえらんだのです ―奈良少年刑務所詩集― (新潮文庫)

空が青いから白をえらんだのです ―奈良少年刑務所詩集― (新潮文庫)

 

 

奈良少年刑務所の受刑者の詩を集めた本。

先週、たまたま図書館で手に取った。

パラパラと立ち読みして、目が離せなくて、空いてる机に座ってじっくり読んだら、涙がこぼれそうになった。詩に添えられた寮美千子さんの解説がぐっとくる。

 

なんてことないんだけど、深いところにまっすぐ届いてくるような、不思議な素直さに満ちた素晴らしい詩。全然知らなかったけど、大手の新聞社でも紹介された有名な本なのですね。

 

わたしの心に残った詩。

 

p33

 好きな仕事

 

自分の好きな仕事は 工場などの屋根を作る板金工です

好きな所は 鉄骨の上を歩くスリルや

競争をして 楽しくできるところです

でも 真夏の屋根の上は暑く

雨が降った時の雷は こわかったです

外の仕事は 雨が降ると中止になりますが

そこも好きなところです

 

ビニールハウス作りも 好きな仕事です

畑の中なので 雨が降った後は 歩くのが大変ですが

一つの場所が 大きくても二日だけで終わっていたので

色々なところに行き 色々な人に会えました

話をしながら仕事ができて 人数が少ないのがよかったです

 

p70

 あたりまえ

 

食べられる

眠れる

歩ける

朝を迎えられる

母がいる

みんな あたりまえのこと

 

あたりまえのことは

あたりまえじゃないんだと

あたりまえのなかのしあわせに気づかずに

薬を使って偽物のしあわせを求めたぼくは

いまやっと 気がついた

 

 

あたりまえの しあわせ

あたりまえが しあわせ

 

p81

 バカ息子からおかんへ

 

恩返しなんて おれにはできひん

もらったもんが 大きすぎるから

恩返しなんて おれにはできひん

でも

悲しませることは もうせえへん

もうせえへんよ おかん

 

p128

 ぼくのママ

 

たかしくんのおかあさんは すごくお料理が上手

まさるくんのおかあさんは いつも笑ってて楽しい

みきちゃんのあかあさんは とってもおしゃれですてき

まことくんのおかあさんは いつもやさしくてあったか

 

ぼくのおかあさんは すごくモテるんだ

だからぼくは いろんなパパを知ってるよ

 

でももう 何年もママに会えなくて

大好きなのに 会えなくて

みんなのママが うらやましくて

ママなんか嫌いって いつもいってたけど・・・

やっぱり好き ママのこと

 

 

編者である寮美千子さんは、もともと刑務所での教育に興味があったわけではない。

その当時、刑務所の教育統括だった細水令子さんの話を聞いて、共感し、やってみようかと思った。と述べられている。

以下に細水さんの言葉を抜粋。

 

p142

「家庭では育児放棄され、まわりにお手本になる大人もなく、学校では落ちこぼれの問題児で先生からまともに相手にしてもらえず、かといって福祉の網の目にはかからなかった。そんな、いちばん光の当たりにくいところにいた子が多いんです。ですから、情緒が耕されていない。荒れ地のままです。自分自身でも、自分の感情がわからなかったりする。でも、感情がないわけではない。感情は抑圧され、溜まりに溜まり、ある日何かのきっかけで爆発する。そんなことで、結果的に不幸な犯罪となってしまったというケースもいくつもあります。先生には、童話や詩を通じて、あの子たちの情緒を耕していただきたい」

 

「社会性涵養プログラム」とは、刑務者の中でもとくに内気だったり、他人とコミュニケーションを図るのが難しい人々に向けて行われた。内容としては、次の3つの要素で構成されている。

 

• SST(ソーシャルスキルトレーニング)

• 絵画

• 童話と詩

 

この3つを、月一回ずつ、合計月三回の授業を6ヶ月行う。

 

この授業の中で書かれたのがこの本の中に収められた詩だ。社会性涵養プログラムは、驚くべき成果をあげる。その後寮さんは、研修会などで、その成果や効果についてパネリストとしてお話されている。

 

最後に、罪を侵した少年たちを見守る竹下教官の言葉をお借りして、記事を終わります。

 

p150

「どんな凶悪な犯罪者も、はじめは心に傷ひとつない赤ちゃんだったはずです。ところが生育していくなかでさまざまな困難に出会い傷ついてゆく。受刑者の多くが、子どものころ、精神的、身体的な傷を受けています。その傷をうまく処理できなかった者が非行に走り、犯罪者になるのかもしれません。更生させ、再犯を防ぐためには、元の自分に戻してやることだと思うのです。子どもらしさを素直に出させ、それでも大丈夫だ、と安心させてやることができれば、立ち直るきっかけになり、非行や犯罪と無縁の生活を送れるようになるのです」

 

世の中のお父さんお母さん。教育者の方たちには、ぜひ一度目を通してほしい本です。 

 

そして、決して世の中の表には出ないところでこのような尊いお仕事をされている多くの方々に、敬意を表したいと思います。