その中でも一番好きかもしれない一冊。それが「黄色い目の魚」
大人なのに中学生みたく、高校生みたくナイーブな気持ちを持て余すとき、自分が嫌いで泣きたいとき、何度も何度も読み返してきた本。
ひねくれ者で、不器用で、どうしようもなくとんがっちゃってる女の子、「村田みのり」と同級生の絵を描くのが得意な男の子、「木島」が変わりばんこに語り手となってストーリを展開していく。わたしは、みのりが本当に好き。まっすぐで、ぶつかってばかりだけど、嘘がない。前半の彼女と、後半の彼女はまるで別人だ。人との出会いって、人から受ける影響ってすごいんだな。と思う。特に、思春期にどんな人に出会うかによって、その人の人生は大きく変わるんだな。としみじみする。
佐藤多佳子さんは、話し言葉ですらすら物語を展開していくのが本当に上手だ。
みのりも木島も、基本的にやる気のなさそうな、力の抜けたひょうひょうとした話し方をする。それが、ほっとできてとても好き。
登場人物がみんな、強烈な個性をもつ魅力的な人ばかりなのもこのお話の見どころの一つ。
好きなシーンや、セリフがありすぎて、本にはしおりがはさまりまくり。
勇気をもらえる本。
ランダムに好きなシーンを抜き出しますね。
p275
いい顔になりたいーーーーふと思った。
もっとキレイになれるといい。目や鼻や口のことだけじゃなくて、それらが作り出す表情、表情を作り出す心。もっとキレイな心になりたい。木島の描く寒い世界の中でリンと明るく光っていられるようないい顔になりたい。
p336
俺は赤く染まりだした西の空に目をやった。胸の奥がかすかにうずく。
「好きなことをやるんだ」
おじいちゃんは言った。
「最後は自分だけだ。誰かのせいにしたらいけない」
その言葉は、重く、強く、厳しく、俺の心と身体を貫いて、背筋をピンとさせた。
ーーー最後は自分だけだ。
おととい、母と江の島に行ってきた。
晴れた冬の海。穏やかな白い波。遠くに富士山が見える。
鎌倉の小町通に寄ってから藤沢まで江ノ電に乗って帰る途中、車窓から見えた海は夕焼けに染まっていた。とても美しい夕暮れ。今にも沈みそうな夕日。
胸がいっぱいになった。幸せだと思った。この光景が見られて。
p435
江ノ電が腰越を出て左にカーブを曲がったとたん、相模湾が車窓いっぱいに広がる。胸がすくほどデカい景色だ。ここが七里ヶ浜だ。よく晴れていて、サーファーの姿も見える村田があそこにいるかもしれないって思うと、じっと座っていられなくなり、ドアの近くまで行って外を眺めた。観光客みたいだよ。
鎌倉高校前の次の駅が七里ヶ浜だ。電車が止まると緊張した。プラットフォームに村田の姿はなかったどうしよう?村田んチからここまでは三十分かからない。俺は二時間近くかけてやってきた。だからって、俺のが後とは限らないんだけど。なんか、ここで待っていても無駄な気がする。ただの勘だけど、駅じゃない、海だろう。村田の言う「七里ヶ浜」って。
・・・・抜粋終了
「黄色い目の魚」の中には江ノ電の駅がたくさん出てきて、その鎌倉の風景が物語に深みを持たせている。七里ヶ浜は、このお話の終盤、クライマックスでみのりと木島が再開する舞台として登場する場所。こんなところで高校生の青春してみたかったよね(涙)
ちなみに、同じようなことを「ザ・オタク代表」の三浦しをん氏もエッセイの中でおっしゃっています。鎌倉高校って、スラムダンクの湘北高校のモデルとなった高校らしいですわよ。
話が逸れましたが、人間嫌いで、人付き合いにもう嫌になっちゃってる人がいたら、ぜひこの本を読んでみてほしいと思います。