このごろあたしは人間ってものにくたびれてしまって、人間をやってるのにも人間づきあいにも疲れてしまって、なんだかしみじみと、植物がうらやましい。
「つきのふね」の書き出しはこんなふう。
これだけでもう、自称ネクラの人は読んでみたいはず(笑)
主人公のさくらは、大親友の梨利とある事件を境に親友でいられなくなってしまう。
梨利は危うい子で、さくらと離れてどんどん不良グループと親密に。
心配だけどなにもできずにもやもやするさくらの代わりに、二人の同級生で梨利のことが好きな「勝田くん」は、変態まがいの怪しげな尾行を繰り返し、さくらと梨利両方から本気でうざがられる。
仲良しグループからもいざこざして離れた孤独なさくらの唯一の安心できる場所は、
バイト先で出会った年上の友人「智(さとる)さん」。
優しくて穏やかな「智さん」だけがさくらの心の拠り所だったが、その彼もまた、大きな闇を抱えていた・・・。
わたし、この本、3本の指に入るといってもいいくらい好き。
私にとっての神と言ってもいいほど尊敬する大好きな森絵都さんの作品の中で、この本が一番好き。
たぶん初めて読んだのは中学生くらいの時で、作中で中学2年生のさくらたちと
もろにタメなのだ。確かにこのころ世間はノストラダムス一色だった(笑)
中学生の頃の友達とのケンカって決定的にそのときの人生全体を真っ暗にするよね。
そんでわたしはそのころから少しうつっぽい自分を持て余していたので、そんな明るく普通にやれない自分の心境に、うっすら陰のあるこの本は、気持ち悪いくらいフィットした。
本の種明かしをしちゃうと、智さんは、精神を少し病んでいます。
でも、この本が書かれた18年近く前より、今のほうが精神を病んでる人の割合は圧倒的に多いはず。だからきっと、「ふつう」から外れてしまった智さんは、2015年から見たらかなり「ふつう=大多数」なんじゃないかな。
森絵都さんのすばらしさは、どうしようもなく弱くてはみ出した人間の中にある
「希望」や「強さ」を物語の終盤になるにつれてくっきりと鮮やかに描き出して見せてくれるところだと思う。
彼女はたぶん、根本的なところで「人間そのもの」を信じている。
だから善と悪にはっきり分けたりせず、人の中には白も黒もゆらゆらまじりあってそのときどき揺れているんだ、って様子を見事に表現して希望を持たせてくれる。
「弱くてもいいんだよ」って。
「でも必ずその中にはよく目をこらせば強さもあるんだよ」って、教えてくれる。
そんでそのメッセージに一切不自然な「無理したポジティブさ」や「上から目線の説教臭さ」がなく、全体のトーンは基本「だらーんと力の抜けた低空飛行」なテンションで語られるところがほんとに好き。
クライマックスは、ラストに載せられた「智さん」が子供のころに、学校を休みがちだった友達のために書いた手紙。その最後の一行がやばいよ。泣く。
わたし、たぶんこのラストでゆうに20回くらいは泣いてると思う。
ってか、弱ってるときに無性に読みたくなるのがこの本だから、基本全体を通して
ぶひぶひ泣いている。ティッシュ一箱近く使ったこともある。(病んでるなー(笑))
でもね、最後に絶対に思うんだ。
「あきらめるもんか!!」ってね。
なんだかこの季節になると読みたくなる本です。
真冬から早春にじっくり感傷的に読みたい一冊でした。