去年NHKで放送され、話題だったドラマ。わたしは残念ながら見ていなかったんだけど、同僚の先生がめっちゃおもしろい!と毎回大興奮で。ついに原作本買っちゃった!と言うのでお借りして読んだ。


うん。
いい本だ!好みだ!
わたしは落ちぶれ者達の再生の話が大好きだ。
共感200%って感じで。
久しぶりにちゃんとした文芸書を読んで、もうすっかりこういう本が読めなくなってる自分に気づく。時間も、気力も。いっきに読みたいと思うとなかなか手が出ない。
そして、もう一生書評は書けないんじゃないかと思うくらい、書けないんだ。感想が。
ちょっとした文章が。
今日書くのは自分のために。
記録のために。
あらすじ。見出しから。
東京、新宿にある都立高校の定時制に集った、さまざまな事情を抱えた生徒たち。
彼らは「科学部」を結成し、
「火星のクレーター」を再現する実験を始めた。
煌々と明かりが灯った夜の教室で、小さな奇跡が起きる・・・
最初の主人公、柳田岳人(やなぎだたけと)はごみ収集の仕事をしながら定時制に通う21歳。
彼は字が読めない。そのせいで、落ちこぼれ人生真っ只中。
読み書きに困難がある学習障害をもっていることを、定時制高校の担任に指摘され、21歳にして初めて知る。
担任の藤竹は、理学部、地球惑星科学科の大学院で博士課程を修了した研究者兼定時制高校教師。
この藤竹先生の、理性的で冷静なのに、内なる情熱ガンガン燃やしてる感じがいい。
彼は、誰かに何かを強制したり、熱血指導したりはしない。
ただ、彼なりの、彼の美学に基づく、ある明確な意図を持っている。
登場人物みんなが、その意図に巻き込まれ、そこから相乗効果が生まれ、ラストで思いもよらない展開が待っている。
そう、終わり方はこうでなくちゃ!
********************
わたしの心に残った言葉。
p15
フィリピン人の50代女性アンジェラに、藤竹が
「難しいヨ」ママが言った。
「式一つでも大変なのに、二つもある。わからないヨ」
藤竹はママにうなずきかけ、正面に向き直る。
「自動的にはわからない」
「どういう意味?」ママが訊いた。
「授業をただ聞いていればわかるとか、教科書をただ読んでいればわかるとかいうものではないってことです。数学や物理はとくに」
「じゃあ、どうすりゃいいんです?」長老が不満げに言う。
「手を動かすんです。何度も何度も書く。やみくもにでも式をいじくり回す。いろんな図をしつこく描いてみる。そうしているうちに、わかった、という瞬間が来ます。必ず」
バカかこいつ。岳人は鼻で笑った。十五、六の頃なら、この席からたばこの箱を投げつけているところだ。そんなふうに勉強ができるくらいなら、定時制なんかにいやしない。
まわりを見ても、若い生徒たちは皆しらけた顔をしている。それを気にする様子もなく、藤竹は真顔で続けた。
「私は天才ではありません。たぶん、あなたたちも。だから結局、方法はそれしかないんです。もし本当に、わかりたいのなら」
p36
かみついてくる岳人に藤竹が
取り戻せますよ。
この学校には、何だってある。
教室があり、教師がいて、クラスメイトがいる。
ここは、取り戻せると思っている人たちが、来るところです。
p42
「知ってますか」藤竹が眼鏡の奥の目を光らせる。「火星の夕焼けは、青いんですよ」
「え、マジ?」思わず反応してしまった。
p51
「我々は、対流の世界を生きてるんですよ」
藤竹が続ける。「地球のダイナミックな現象は、突きつめればほとんどすべて、対流による熱の輸送が引き起こしたものです。
雲も雨も風も海流も、地震も火山も」
「え、地震も火山も?」
「はい。一年生のときに授業でやりましたが、地球や火山が生じるのは、プレート運動のせいですね。プレートがなぜ動くのかというと、その下のマントルがゆっくり対流しているから。地球が内部の熱を外に吐き出そうとする働きです」
p96
藤竹が佳純と二人の生徒を互いに紹介した。
金髪の男子は柳田岳人。
中年女性は越川アンジェラ。どちらも二年生だという。不思議な取り合わせだが、この二人と藤竹で、週に何度か地球や惑星の現象に関連した化学実験をしているとのことだった。
「今日から、火星の夕焼けを再現する実験を始めるんです」藤竹は驚くようなことを平然と言った。
「火星の夕焼けは青いんだってよ」
岳人がぶっきらぼうに横から差しはさむ。
「青?」それは知らなかった。火星の空といえば、うっすら赤いというイメージだ。
「信じらんねーだろ。だからそれを確かめる」
「持ってきたヨ、ペットボトル」アンジェラが二リットルサイズの空のペットボトルをバッグから取り出した。「きれいに洗ってあるから」
「まずは手持ちの材料で試しにやってみましょう。果たしてどの程度うまくいくか」
p98,99
「映画にも夕暮れのシーンが出てきましたが、空はオレンジ色でしたよね。でも実際の火星の日没は、こういう感じだそうです」
藤竹はパソコンを手早く操作し、一枚の画像を映した。黒い大地の陰に隠れつつある、青白い太陽。それを縁どる空は青く色づき、放射状にグラデーションしてグレーへと変わっていく。
「きれい」佳純はつぶやいた。
まさに青い夕焼けだ。
「地球の夕焼けがなぜ赤いか、知っていますか」
「いえ、何となくしか」
藤竹は紙に図を描きながらレイリー散乱という現象について説明し、地球の空が青く、夕焼けが赤い理由を教えてくれた。
昼間の空が青いのは、太陽光が空気の分子にぶつかり、波長の短い青い光がより強く全天で散乱されるためだ。
日没近くになると、太陽光が大気を通る距離が長くなり、青色以外の光も散乱の影響を受けるようになる。したがって西の空を見ると、もっとも波長が長く散乱されにくい赤い光が生き残って目に届く。それが地球の夕焼けが赤い理由だという。
「火星では、その逆のことが起きているんです。火星の大気は極めて薄いのですが、その代わり風によって巻き上げられた塵が大量に含まれている。塵の粒子サイズは赤色の波長に近いので、太陽光のうち赤い光をより強く散乱させます。ですから、火星の昼間は赤っぽい。夕方になって太陽高度が下がると、散乱されずに残った青い光が、我々の目に届くので、青い夕焼けが見られるというわけです」
p187
「人を殴るって、どんな感じですか」
「え、殴ったことねーの?」
「あるわけないでしょ」ブラザーの袖をまくって細い腕を見せる。
「ああ・・・パソコンやるので精一杯だな、そりゃ」
「変なこと訊きますけど」思い切って言ってみる。「家族を殴ったこと、ありますか」
「ねーよ」岳人は即答した。
「親父の胸ぐらをつかんだことは何回もあるけど、殴ってはない。その代わり、壁ぶん殴って穴あけて、ドアも蹴ってぶっ壊した」
「殴る代わりに、ですか」
「俺に限らず、親を殴るなんて、そう簡単にできるもんじゃないと思うぜ。そんなことしたらたぶん、相手だけじゃなく、自分まで壊れちまう。自分を守るためにも、代わりに物をぶっ壊すんだよ」
最後の言葉に、自分でもたじろぐほど胸を締めつけられた。
弟の衛も、母親に直接暴力を振るったことは一度もない。要にもだ。家の中をめちゃめちゃに壊すのは、誰かを傷つけたいからではなく、むしろその逆ということか。
p252
「人間は、その気にさせられてこそ、遠くまで行ける」
p277
「人生こそ、自動的にはわからない」
「自分の将来を、一本道のように見通せる人はいません。誰しも、いるのはいつも窓のない部屋で、目の前には扉がいくつもある。とにかくそれを一つ選んで開けてみると、またそこは小さな部屋で、扉が並んでいる。人生はその連続でしかない」
「正解の扉などというのは、たぶんありません。入った部屋で偶然に誰かと出会い、あれこれ手を動かしてみて、次の扉をえいやと選ぶだけです」

この本を読んで思うのは、
方向性と、きっかけと、環境についてだ。
あとは、人の持つ、可能性について。
あなたはダメだね。と言われ続けた人は、
やっぱり自分もそう思い込んでそうなってしまう。でも、可能性を決めつけずに信じてくれて、方向性を指し示し、それを伸ばす環境を与えてくれる人がいたなら、きっかけを作ってくれる人に出会えたならば、人間の持つ可能性って無限大なんだな。と改めて感じた。
あなたはすごいんだよ!
あなたはできるんだよ!
失敗してもやってみなよ!
そんなふうに言ってくれる人に出会える人って、この日本でどのくらいいるんだろうか。
大抵、一番認めて欲しい親に、コテンパンに否定されてしまって、期待に添えなくて、苦しんでる人が多い気がする。
いつかドラマが見てみたいと思いました。
やっぱり、この話は実験のシーンが多いから、理系に疎い人は文章だとピンとこない。
映像向きだと思う。
久しぶりの本の感想。
なんとか書き切った!
自分をほめよう。よくやった😆✨