深呼吸図書館

悩めるあなたのための1冊アドバイザー“なついちご”が、今のあなたの気分にぴったりの本紹介します。

やなせたかし「わたしが正義について語るなら」

けっこうまえにBOOKOFFで買っていたこの本を昨日読み終えた。

 

 

やなせたかしさんの本は、数冊読んだことがある。

底抜けに優しい方、という印象。

いつもご自分を「劣等生」と表現されるところに共感していた。

 

ほんとうの覚悟を持ったやさしい人間は、決して声高になにかを叫んだりしない。

だけど、「ほんもの」はちゃんと伝わる。

そんなふうに感動した本でした。

 

「正義」というのがこの本のテーマだけれど、内容的にはアンパンマンの生まれる経緯ややなせさんの生い立ちがかなり含まれている。

 

~正義について

 

p4

でも後からアンパンマンを書くようになって、ぼくがはっきりと伝えたいと思ったのは本当の正義でした。自分では最初、そのことに気づいていなかったけれど、若い頃に兵隊に行って戦争を体験したことが大きく影響しています。

戦争に行って、正義について考えるようになりました。

 

p15

 子どもたちとおんなじに、ぼくもスーパーマンや仮面ものが大好きなのですが、いつもふしぎにおもうのは、大格闘しても着るものが破れないし汚れない、だれのためにたたかっているのか、よくわからないということです。

 ほんとうの正義というものは、決してかっこうのいいものではないし、そしてそのためにはかならず自分も深く傷つくものです。そしてそういう捨身、献身の心なくしては正義は行えませんし、また、私たちが現在、ほんとうに困っていることといえば物価高や、公害、飢えということで、正義の超人はそのためにこそ、たたかわねばならないのです。

 

 

~戦争について

 

p17、18

 耐えられないのは何かというと、食べるものがないということだったのですね。それ以外のことは、けがをしても薬をつけていれば治るし、たいていのことは我慢できるのだけれど、ひもじいということには耐えられません。なんでもかんでも食べたくなっちゃう。一番辛いのは食べられない、飢えるということだったんです。

 

p19

どこかの国で戦争が起きると、戦争している国同士は両方正義だ、悪い奴をやっつけると正義が勝ったのだと言って戦っているけれど、子どもたちのことは見てやらない。そうして子どもたちは次々に死んでいますね。

 だからぼくは何かをやるとしたら、まず飢えた子どもを助けることが大事だと思った。それが戦争を体験して感じた一番大きなことでした。

 

p20

 戦争で感じた大事なことがもう一つあります。それは、正義というのはあやふやなものだということです。

 

p21

 正義はある日突然逆転する。

 逆転しない正義は献身と愛です。

 それは言葉としては難しいかもしれないけれど、例えばもしも目の前で飢えている人がいれば一切れのパンを差し出すこと。それは、戦争から戻った後、ぼくの基本的な考えの中心になりました。

 

p33

 悪者は最初から最後まで完全に悪いわけではありません。

 世の中にはある程度の悪がいつも必要なのです。現実の社会はそういうところが難しい。

 

p37

ぼくは悪人と言われている人の心がすべて悪でできているとは思えないのです。悲しいけれども悪役をやらざるをえなくなっている人もいるのです。

 

 

アンパンマンを通して描く正義

 

p98

 アンパンマンを最初に認めたのは三歳から五歳の幼児です。この世に生まれたばかりで、まだ文字をあまり読めず、言葉もおぼつかない赤ちゃんです。

・・・・中略・・・・

 アンパンマンがなぜウケるのか、今でもぼくには分かりません。でもぼくは真剣に考えるようになりました。そして自分のメッセージをしっかり入れることにしました。

 「正義とは何か。傷つくことなしには正義は行えない」

 

p122

ばいきんまんドキンちゃんは、いつも自慢ばっかりしていますが、アンパンマンは「ぼくはすごいんだ」とか「ぼくはエラい」とか自慢しない。慎ましいですよ。

 正義は勝ったと言っていばってるやつは嘘くさいんです。

 正義を行う人は非常に強い人かというと、そうではないんですね。我々と同じ弱い人なんです。でも、もし今、すぐそこで人が死のうとしているのを見かけたら、助けるためについ飛び込んでしまう。ちっとも強くはない普通の人であっても、その時にはやむにやまれぬという気持ちになる。そういうものだと思います。

 

p123

戦う時は友達をまきこんじゃいけない、戦う時は自分一人だと思わなくちゃいけないんだということなんです。お前も一緒に行けと道連れをつくるのは良くないんですね。

 

責任は自分で負うという覚悟が必要なんだということなんです。

 

p126

 アンパンマンは、自分の顔を子どもに食べさせるのだから、ある面では自己犠牲です。正義を行う場合には、本人も傷つくということをある程度覚悟しないとできません。

 

p127,128

みんな傷つきたくないから正義なんてやらない。長いものには巻かれろと巻かれてしまうわけ。部長が言うことなら、悪いなと思っても仕方なくやってしまう。良心はやや痛むでしょうけれどもね。それで責任は取らされる。

 でも、それではいけないのですね。傷ついてもやらなくちゃいけない。そうしないと世の中はどんどん悪くなってしまうんですね。敢然として自分が傷つくことを恐れずやらなくちゃいけない。

 

p129

 アンパンマン自身は、人が喜んだりアンパンを食べてみんなが「おいしい」と言ってくれるのが何より嬉しいんだよね。なぜかというと、それは実はぼく自身もそうだからなのです。「アンパンマンのマーチ」の中に、

 

  なんのために 生まれて

  なにをして 生きるのか

 

という歌詞があります。これは、ぼくの人生のテーマソングでもあります。

ぼくはみんなが楽しんで喜んでくれるのが一番嬉しい。

 

p143

 ひとつはっきり言えるのは、戦争は良くないということ。

 

 

p145

 自分の身を守るにはどうしたらいいか分からない。良識に訴えるしかない。金が儲かればいいということだけが強くなってはいけないんですね。

 自分は自分の範囲でやるしかない。そういう人間が少し増えていけばいいんです。世の中には悪もある。悪の部分が少し少なくなればいい。

 誰だってそう多くのことはできません。日本全体のために良いことをしようと考えてもそんなに簡単にはできない。

 人を助ける場合でも十人くらいは助けられるけれど、それ以上は難しい。でも一人が十人くらい助ければ、自分の周囲だけでもというふうにすれば、そういう人が増えればいいのだと思います。

 

p149~153

 人生なんて夢だけど、夢の中にも夢はある。

 悪夢よりは楽しい夢がいい。すべての人に優しくして、最後は焼き場の薄けむり。誰でもみんな同じだから焦ってみても仕方ない。そう思っています。

 最後に「アンパンマンのマーチ」の全部の歌詞を紹介して正義の話を終わります。

 ぼくが正義という言葉に込めたい思いは、この詞の中にあります。

 

 

そうだ うれしいんだ

生きる よろこび

たとえ 胸の傷がいたんでも

 

なんのために 生まれて

なにをして 生きるのか

こたえられないなんて

そんなのは いやだ!

今を生きる ことで

熱い こころ 燃える

だから 君は いくんだ

ほほえんで

 

そうだ うれしいんだ

生きる よろこび

たとえ 胸の傷がいたんでも

ああ アンパンマン 

やさしい 君は

いけ! みんなの夢 まもるため

 

なにが君の しあわせ

なにをして よろこぶ

わからないまま おわる

そんなのは いやだ!

 

忘れないで 夢を

こぼさないで 涙

だから 君は とぶんだ

どこまでも

 

そうだ おそれないで

みんなのために

愛と 勇気だけが ともだちさ

ああ アンパンマン

やさしい 君は

いけ! みんなの夢 まもるため

 

時は はやく すぎる

光る 星は 消える

だから 君は いくんだ

ほほえんで

 

そうだ うれしいんだ

生きる よろこび

たとえ どんな敵が あいてでも

ああ アンパンマン

やさしい 君は

いけ! みんなの夢 まもるため

 

 

 ・・・・・引用終了

 

 

もう、わたしがぺちゃくちゃ話すことはなにもない。

圧巻の終わり方。

この詞で終わられたらもう泣くしかないわ(;_;)

 

震災後にこの曲がラジオで繰り返しリクエストされたことは、決して偶然ではないと思う。真理はいつもひとつの流れにつながっていく。

「悪は抱き参らせよ」と説くひふみ神事や神道のおしえ。

みんなと仲良く、おおらかになごやかに、と説く矢追日聖さん。

 

哲学者として、詩人としても一流であられたやなせさん。

「ぼくは人を喜ばせたい」

「人が喜ぶとうれしい」

と、何度も何度もわかりやすく語ってくれている。

 

人としての原点。

そんな心の芯の部分を見つめたいときに読んでみてほしい本でした。

もともと子供向けに書かれたものなので、とても読みやすいです。

 

優しい人になりたい。

戦わずに、争わずに、やさしく強くあることができるしなやかな心と智恵がほしい。