深呼吸図書館

悩めるあなたのための1冊アドバイザー“なついちご”が、今のあなたの気分にぴったりの本紹介します。

自分へのエールとして~茨木のり子詩集

 

落ちこぼれ―茨木のり子詩集 (詩と歩こう)

落ちこぼれ―茨木のり子詩集 (詩と歩こう)

 

 水内喜久雄編

茨木のり子詩集「落ちこぼれ」より

 

p48

 「落ちこぼれ」

 

落ちこぼれ

  和菓子の名につけたいようなやさしさ

 

落ちこぼれ

  いまは自嘲や出来そこないの謂(いい)

 

落ちこぼれないための 

  ばかばかしくも切ない修行

 

落ちこぼれにこそ

  魅力も風合いも薫るのに

 

落ちこぼれの実

  いっぱい包容できるのが豊かな大地

 

それならお前が落ちこぼれろ

  はい 女としてはとっくに落ちこぼれ

 

落ちこぼれずに旨げに成って

  むざむざ食われてなるものか

 

落ちこぼれ

  結果ではなく

 

落ちこぼれ

  華々しい意志であれ

 

 

p28

 

 「もっと強く」

 

もっと強く願っていいのだ

わたしたちは明石の鯛がたべたいと

 

もっと強く願っていいのだ

わたしたちは幾種類ものジャムが

いつも食卓にあるようにと

 

もっと強く願っていいのだ

わたしたちは朝日の射すあかるい台所が

ほしいと

 

すりきれた靴はあっさりとすて

キュッと鳴る新しい靴の感触を

もっとしばしば味わいたいと

 

秋 旅に出たひとがあれば

ウィンクでおくってやればいいのだ

 

なぜだろう

萎縮することが生活なのだと

おもいこんでしまった村と町

家々のひさしは上目づかいのまぶた

 

おーい 小さな時計屋さん

猫背をのばし あなたは叫んでいいのだ

今年もついに土用の鰻と会わなかったと

 

おーい 小さな釣道具屋さん

あなたは叫んでいいのだ

俺はまだ伊勢の海もみていないと

 

女がほしければ奪うのもいいのだ

男がほしければ奪うのもいいのだ

 

ああ わたしたちが

もっともっと貪婪(どんらん)にならないかぎり

なにごとも始まりはしないのだ。

 

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すごいねー、本物の詩人が書いた詩は生きてるんだね。

この息遣い。リズム。こころに生まれる力。

薄っぺらくない。骨太なのり子さん。

この自立心と反骨心とやさしさが憧れ。

強くて、でも繊細でやさしいひと。

励まされます。ありがとう。