書く前からくじけている。
この本の感想文、わたし書けないかも。
頭の中で考えて、まとめようとすればするほどまとまらないし、どう書いていいのかわからない。あまりに私的な感情に揺さぶられすぎて、言葉にしてうまく伝えられる自信がない。
だからまとめようとするのはやめる。
読んで素直に感じたことをつらつら書こう。
この本を読んでわたしが何よりすごいと思ったのが、戸塚さんが自分のがんについて
終始「冷静」かつ「客観的な」姿勢を貫いていること。
腫瘍の大きさを測ってデータにしたり、分析したり。
そのがんとの向き合い方について主治医の先生は、
「超人的な精神力」であり「普通の人には耐えられない」と、先日みたNHKの番組で
述べておられた。
戸塚さんは、このブログを通して終始冷静で、穏やかで、前向きで、そして率直だ。
自分を「弱い」人間だといい、死ぬことへの「恐怖」を率直に語り、
思い通りにならない状況があっても、淡々とありのままを受け入れているように見える。
自分の感情や思いを書きなぐったりすることのない、抑えた語り口が、逆にとても心に迫る。それは決して、戸塚さんに荒れ狂う感情や、葛藤がなかったというわけではない。彼は、それを人に見せないで、自分の中で収められるほどに、その状況になってもなお人の役に立ち、世の中の流れに敏感でいられるほどに、「人格的に優れていた」ということだと思うのだ。
この本を読んで一番に感じ入るのはそこ。
戸塚さんの高潔で情熱的な「人格」に触れて、胸が熱くなる。
人はいかに生きて、いかに死ぬべきか。
その答えを、垣間見せてくれる。
わたしの父は、再発した時、告知は結局しなかった。
「絶対に再発を認めたくない」という言葉にならない強い思いが全身からあふれていたように思う。再発、そして末期という状況を認めたら、何を心の支えに生きればいいのか。
うちの父は、亡くなる前の1年間、固形物がまったく食べられなかった。
胸から直接点滴で栄養を入れていたし、腸も壊れてて、おなかに穴が開き、そこからうんちの変わりみたいな液が出てしまっていた。4つくらいの管につながれてて、死んじゃうから最後にしたいことしたい。と思っても何もできなかった。
唯一の救いはがんの一番の問題である「痛み」の症状が、出なかったこと。
だけど、意識がはっきりしてるのに、体の機能がどんどん壊れていく状況は、「絶望」や「恐怖」という以外の言葉でどう表したらいいのかわからない。
「よくなりたい」「治る」という希望がなかったら、何を支えに残りの日々を生きていけばいいの?何を支えにがんばればいいの?
病院は結局、治る見込みがある人のための場所なのです。
治る見込みがない人に、居場所はない。
うちは、在宅で母が昼も夜もなく看ました。
もちろんわたしも手伝ったけど。
世の中、マスコミの流すがんの感動話は、みんな「がんを正面から受け入れて最後まで前向きにがんばる」というお決まりの筋書き。
でも、誰もがみんな、そんなに強くないよね。
知らない方が頑張れる人もいると思うんだよ。
知りたい人もいる。
それってさ、どっちが善とか悪とかじゃない。
正しいとか間違ってるとかじゃない。
「がんは十人十色」
自分のがんに効いたからって、ほかの人に効くかは別問題。
お願いだから、治った側の人からだけの高揚感に満ちた目線で、「がんは治る」
って声高々に叫ばないで。
「奇跡の〇〇」なんてないよ。
あったらこんなにがんで死なないよ。
もうどうにもならない状況にいる人に向かって、
治る人と同じように語りかけないで。
精神論だけじゃ片付かないんだよ。
そして、がん患者をカモにした商売のすべてが、この世から滅びればいい。
その商売にかかわった人たちは、もちろん死後の世界で裁かれるだろうけど、
いくら弱っていても、そんなものに引っかからないで。
どんなに壊れた体でも、一切の希望に見捨てられても、
人は死ぬ瞬間まで生きてるんだ。
そのとき心を支えるものがなんなのか、わたしは突き詰めていきたい。
治る見込みがない人に、一日も長く生きてほしい、って思うのは、
自分のただのエゴだってわたしは最後のほう思ってた。
だから、一日でも父が楽な病状で、笑ってすごせるようにって、祈るしかなかった。
生きてればいいってもんじゃないよ。
わたしは延命治療には反対。
本人もかわいそう。
感謝で治る人もいると思うよ。
だけど、考え方を180度変えるって、並大抵じゃないよ。
なにかの本で読んで、さらに緩和病棟で働く友達の看護士さんも言ってた言葉。
「人は、生きてきたようにしか死ねない」
わたしは、どんなに生きてるのがつらいときでも絶対に覚えてようと思う。
父も、戸塚さんも、がんで声も上げずに亡くなっていった人たちも、
みんな「生きたくて生きたくて生きたくて」仕方なかったんだってことを。
その切実な思いを、忘れずにこの命を何かの役に立てたい。
いつか、行き場のない末期がん患者とその患者の家族のために、何かしたい。
戸塚さん、わたしは何もできない人間だけど、あなたという存在を尊敬し、
覚えていることだけはできます。
どうか、この本がより多くのがんで苦しむ人たちとその家族の手に届き、
少しでも救いとなりますように。