キッチン①の感想続き
今のばななさんには賛否両論あるだろうし、正直わたしもちょっと離れ気味な感じもある。だってなんだかすんごく説教臭いんだもん。
過去を嘆きすぎても気持ちよくなれないよ。という日記的な文章が多い気がして疑問を感じなくもない。でもやっぱり、その中に「キラッ」とした言葉があるからずるいんだよね。
キッチンの何がそんなに魅力的かって、やっぱその「透明感」!
そして一つ一つのシーンがやたらと切なくて美しいのです。
いまのばなな作品と違って、ストレートな表現もいい。
変にまわりくどかったり、説教臭かったりしない。
ただただみんながピュアって雰囲気に、当時の(今もかな)弱ってたわたしは癒されたんだと思う。
一昔前風に言うと「おセンチ」な気分にどっぷり浸れるのが心地よかったのかも。
たぶん今の年齢で初めて読んだらこっぱずかしくてあんなに素直に感動できなかった。
夏になると、決まって思い出すのが主人公みかげが独学で学んだ料理を雄一とえり子さんに振舞うシーン。このシーンの夏の匂いがとても好き。
そういう一つ一つのシーンが細切れで、誰かの人生の中でふっと思い出されたりする時点で、その作家は圧倒的に天才なのでしょうね。
文庫版キッチンの109p 主人公みかげが恋敵に暴言を吐かれた後で・・・
「私が彼女より勝ってるとか、負けているとか、誰に言えよう。
誰のポジションがいちばん良かったかなんて、トータルできないかぎりは誰にもわからない。しかもその基準はこの世にはない・・・」
113pのえりこさんが女になった経緯をみかげに独白するシーン
「うまく口に出せないけれど、本当にわかったことがあったの。口にしたらすごく簡単よ。世界は別にわたしのためにあるわけじゃない。だから、いやなことがめぐってくる率は決して、変わんない。自分では決められない。だから他のことはきっぱりと、むちゃくちゃ明るくしたほうがいい」
この本は、「キッチン」そしてキッチンの続編である「満月」、ばななさんのデビュー作である「ムーンライト・シャドウ」の三本立てとなっているが、「ムーンライト・シャドウ」がまた本当に素晴らしい。
わたしは必ず、あの最後の一行で泣く。
何度読んでも泣く。
そして、どんなに絶望に負けそうでも「希望」って感覚に近いものが心の中で少し元気を取り戻す。
この年になって、こんなセンチメンタル小説で相も変わらずセンチメンタルになるわたしはやっぱりかなり精神的に幼いんだと思う。
だけど、誰に言われても、わたしはこの小説が好きだ。
この小説に救われた。
自分を魂の芯の部分に何度でも戻してくれる本。
読んだことある人も、ない人も、さらりと読めるので、ぜひピュアな気持ちで読んでみてはいかがですか。